横浜地方裁判所 平成6年(行ウ)1号 判決
原告
稲村得寿(X)
被告
(箱根町長) 小川欣一(Y)
被告参加人
箱根町町長 小川欣一
右被告ら訴訟代理人弁護士
本多藤男
事実及び理由
第三 争点に対する判断
一 本件芸者代等の支払いにかかる請求について
1 瀬戸ら五名が本件視察にかかる本件出張をし、その途中の平成五年二月二〇日、長崎市の「いけす料亭こがね」において、会食し、その際、本件芸者代等を支払ったことは、前記のとおり争いがない。
そして、〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
瀬戸ら五名は、当初の予定のとおり本件視察にかかる本件出張をしたが、右料亭における会食及び芸者の予約は、出発前に議員の一人が行った。当日、宴席には、芸者が二人同席し、お酌をするなどしたが、歌や踊り等はなかった。随行の職員は、瀬戸ら五名から預かっていた本件出張にかかる日当の中から、本件芸者代等を支払った。本件出張の旅費・日当については、事前に概算払いがされた。旅費は、一人当たり五万六六五〇円、日当は、議員一人一日三〇〇〇円、職員一人一日二七〇〇円で各三日分、宿泊料は、一人当たり二泊で三万二〇〇〇円であり、ただし、議員五名の出張が予定されたが、二名は、不参加で、議員の旅費・日当は、一定の額で打切りとされた。
出張後に、瀬戸ら五名の旅費・日当について、精算がされたが、その際、返納の事由はないとされた。
2 次に〔証拠略〕によれば、次のとおり認められる。
旅費は、公務のために旅行する職員に対し、旅行に要する費用を金銭給付として当該地方公共団体から条例に基づいて支給されるが、実費弁償というものの、現実に要した費用を厳密に計算するのではなく、一定の基準で定められ、標準化された経費を基礎として算出される。
したがって、実費弁償というものの、それは、あくまで建前であって、純粋な意味での実費弁償とはなっていない。このことは、旅費の多くが定額方式によって与えられており、その範囲内において、いかに旅費を使用するかは、旅行命令に違反しない限り、旅行者の自由意思に任されていることからも伺うことができる。
旅費の日当については、旅費の額として定められたもの以外の旅行中の様々な経費に対する費用弁償の性格を持つものといわれるが、通常は定額で支給することとなっている。したがって、これについても、一種の建前論であって、純粋な意味での右経費に対する費用弁償とはなっていない。そして、このように通常は、定額方式によって算出するものであることから、与えられた定額の範囲内において、いかに日当を使用するかも、旅行命令に反しない限り、旅行者の自由意思に任されているといえる。そして、日当は、旅行中の日数に応じて支給される。
このような性質の旅費・日当については、一定の旅行命令に対して支出されるものであるから、概算払いで支出され、精算の結果、日程が変更されたり、予定コースが変更になって余剰金が生じた等、返納事由が生じた場合以外は、領収書等の添付も不要な扱いで、当該旅費受領者のものとなり、返納すべき性質のものではない。
そして、これらの点は、箱根町における議員及び職員の旅費・日当についても同様である。
3 右1、2によれば、本件視察にかかる本件出張は、一応予定どおり実施されたものであり、事前に芸者の予約がされてはいたが、本件視察にかかる本件出張が現に実施されたこと及び本件芸者代等の金額、その旅費・日当に占める割合などからみて、本件出張が、もっぱら当初から芸者による宴会だけを目的とした出張とまでは認められず、また、本件芸者代等は、日当から支払われているが、前記日当の性質及び本件出張が正規に行われたことからすると、出張において、芸者付の宴会をすることの当否はともかく、その日当による支払いが旅行目的に反し違法であり、旅費の精算において返納すべき事由に当たるともいえない。
そうすると、瀬戸ら五名において、本件芸者代等に充てた日当を返納すべきとはいえない。
4 以上によれば、瀬戸ら五名において本件芸者代等にかかる金員を返納すべき義務があることを前提として、被告が同人らに対して不法行為又は不当利得を理由にその請求をしないことが違法な損害であるとする本件請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
二 本件芸者代等にかかる請求以外の請求について
1 〔証拠略〕によれば、原告の提出した本件監査請求にかかる「箱根町職員措置請求書」には、「いけす料亭こがね」で会席し、公費清算した九万三一〇四円の中に、芸者の花代一万四〇〇〇円、同車代三七七〇円の合計一万七七七〇円が含まれているが、この支出は、条例等に違反し、かつ不当な公費支出となるものである旨、記載されているだけであり、その後の本件監査請求における審議(本件出張をした職員二名及び原告から事情を聴取するなどした。)においても、もっぱら本件芸者代等の支出の是非だけがその対象となっており、本件出張にかかるその他の費用は、まったく問題にされていなかったことが明らかである。
確かに右措置請求書の末尾には、「二泊三日の熊本、長崎両県への県外視察にかかわる公金支出につき、速やかに特別監査を行い、」と記載されてはいるが、右のような経過からして、右公金支出とは、本件芸者代等を指すと解され、この記載は、右認定を左右しないというべきである。
2 右によれば、本件訴えのうち本件芸者代等にかかる請求以外の部分は、監査請求を経ないものであるから、不適法である。
三 結論
よって、本件訴えのうち、原告が、箱根町に対し、芸者代等にかかる一万七七七〇円の支払いを求める部分以外の部分を却下し、芸者代等にかかる一万七七七〇円の支払いを求める部分を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 浅野正樹 裁判官 秋武憲一 小河原寧)